2022/04/30 15:20

「伝統工芸」と文字にすると、なんとも厳かな印象を受けますが、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律で定められるもの」と書くと「そうなんですね...凄いんですね〜」といった反応が返ってきそうです (苦笑)
少し違った見方で表すと、工業化 · 電子化が進んだ現代に於いても、手作りの持つ人間味のある温かさや機械では表現できない繊細さ故に古くから伝承され続けてきたものとも言えます。
現代ではAI(人工知能)なるものが開発され、数秒で最適な効率で経済価値までを計算し、人間が便利で豊かに生活するためのプログラムが導き出されるまでになりましたが、一方で人の手によってのみ導き出される美しさの価値も変わらず残り続けています。
デジタルとアナログは切っても切れない相関関係にあるのです。
繊細で可憐なつまみ細工を携帯でデジタル写真に収め、インターネットを使ってSNSで共有し「綺麗」と共感する...これが現代です。
話を戻して、つまみ細工は約200年の歴史を持つ伝統工芸と世間では言われていますが、正確に言うと広い意味でのつまみ細工は我が国では伝統工芸としては認められていません。
唯一東京都が伝統工芸として指定しているのが「江戸つまみかんざし」と呼ばれるもので、これは京都の舞妓さんが身に付ける「花かんざし」と呼ばれるものとは少しばかり趣の違う種類のつまみ細工です。
華やかできらびやかな花かんざしに比べ、江戸つまみかんざしは控えめながら淑やかさや可憐さが表現されたものが多いと言われています。
これは江戸小紋などと同じく歴史的に当時の江戸の民はお上によって派手な衣装を控えさせられたという事にも起因すると考えられています。
江戸の旦那衆が「小粋」なかんざしを女性にプレゼントする時、「たいそうな物ではないけど貴女の為に設えたものです」という意味合いを込めてかんざし職人に頼んだなどのエピソードも存在します。
私達つまみ細工一凛堂は、こうした歴史感を添えて「江戸つまみかんざし」の伝統を正しく伝え遺していくことを理念の一つに挙げています。
これには江戸つまみかんざしの起源というより、近代史を実際に経験されている方々の力添えが必要不可欠ですが、幸いにも一凛堂には数少ない現役の江戸つまみかんざし職人の戸村先生がいらっしゃいます。
戸村先生の技法や取り組み方、どんな生地を選ぶのか、どんな道具を使うのか、また何故そうなのか、経験則や歴史感も含めて私達自身も学び、これを伝え遺していきたい。
その為には、活動を続けていくための経済的な裏付けだけでなく、よき理解者や伝達者、何より技術や意志を受け継ぐ後継者も不可欠な存在です。
伝統工芸の伝承は、未来を見据えて足元の小石を拾い上げながら試行錯誤を繰り返してきた先人達への尊敬と感謝の念、先人から受け継いだ想いを次の世代へ必ず伝えるという強い意志がなくてはなりません。
一方で「経済的に成り立つこと」も同じくらい重要なことですが、現在のつまみ細工の世界を見ると明らかに「C to Cビジネス」の上で裾野が拡がったというだけで、現実には職人さんの仕事が増えたり本来の伝統工芸としての価値が高まったとは言い難いです。

本物をどうやって市場の中で守り・育て・経済的にも成り立たせていくか・・・私達「つまみ細工一凛堂」は、こうした部分に意識を集中させて取り組んでいきたいと思っています。